私のファミリー スイート
vol.
01

小説家

平野啓一郎さん

"好きな自分"になれるリビング

ー 前編 ー

京都大学在学中に芥川賞を受賞した『日蝕』でデビューしてから20年。
『葬送』、『マチネの終わり』、『ある男』と注目作を重ね、現代日本文学の旗手として活躍する平野啓一郎さん。
平野さんが考えるリビングのイメージを再現した展示場「ファミリー スイート」にて、
現代の家族の暮らし、その中心である「リビング」について語っていただきました。

家族の距離感が計れる広さの
空間であることが大切

リビングについて語る前提として、家族の個室があるってことがすごく重要だと思っています。どこに居ても家族の息吹が感じられるという家では、クリエイティブな人間は育たないと思うんです。文学や音楽が好きという人が自分の好きなことに集中するときにはやはり、誰にも邪魔されないところで浸るということが大事で、親の目がいつまでも届くというのは一種の監視になりかねない。子どもの声が聴きたい時はドアを開けておけばいいと思うんです。

その上でリビングがやはり家族みんなが集まれる場所であった方がいい。僕も家族がいるからやっぱり、子どもや妻と共有できるスペースが必要です。さらにできたら広いリビングがいいですね。狭いと人間関係が悪くなる、というのが持論です。パートナーと行き違った時に、そのままずっと同じスペースにいるとますます関係がこじれてしまうけど、少し距離を置くことができたら冷静になれる。

だからこそ、リビングが広くて、子どもがちょっと遠くで騒いで遊んでるのを一応見てるくらいの感じが理想ですね。狭いと子どもが無邪気に遊んでるってことに関して、不寛容になってしまう。うるさいから、静かにしなさいとか言いたくなって。たとえばソファがあって、少し向こうの方で子どもが楽しそうに遊んでる風景が見れるくらいの距離感が上手く設定されるといいなと思います。家に人を招く時も、リビングの広さで交際の仕方が変わってくるでしょうね。

柱のない大空間に工業デザイナーによるスタイリッシュな家具をアレンジ。開放的な大開口には緑が揺れる。(イズ・ロイエ立川展示場)

自然もアートもラグジュアリー感も必要

都心に住むのが好きですが、マンション暮らしで植物に飢えている。家の内にも外にも緑がたくさんあって、木を眺めながら暮らすことに憧れがあります。実家は田舎だったので、庭にさっと出て戻ってくることができた。しっかりと根を張った大きな木がたくさんあって、住まいから季節ごとの変化を見られるというのはやはりいいですよね。高層マンションは景色が単調なんです。空しか見えないから。窓から木々の揺らぎが見え、モノがない空間。僕、根本的にミース・ファン・デル・ローエのような家が好きなんです。景色を取り入れる大きなガラス窓、シンプルでありながら、内装の石の使い方が贅沢で。

リビングのディテールとしてもう一つは、裸足で生活できること。子どもが成長したら、一部は石の床にしたいんです。綺麗な石が貼ってあるリビングに。それにナチュラルな木が調和したような、ちょっとセクシーで高級感がある雰囲気がいい。

アートも欲しいですね。壁に飾りたいと思った作品があったんですが、壁がなくて買えなかった油絵があるんです。大空間の全面に開放的な開口があるリビングは気持ちがいいけど、1面は何もない壁があってアートを飾るといいですね。落ち着きすぎる空間よりは、コンテンポラリーなデザイナーの感性に少しは触れられる方がいい。結局、僕はオランダのモーイの椅子を買ったんです。すごく良くて気に入ってます。

  • 20世紀モダニズム建築を代表するドイツの建築家。代表作『ファンズワース邸』は床平面を最大限に広く使うというミースの考え方、「ユニバーサルスペース」がふんだんに盛り込まれた全面ガラス張りの白い建物。

「外の景色だけでなく、画集とかアートを置ける壁があるといい」と、平野さん。

持続できる状態こそ"幸せ"

「家族の幸せな暮らし」と聞かれて思うのは「持続可能性」という言葉です。持続できるっていう状態が「幸せ」なんですよね。ストレスがあったり、誰かが我慢していたり、自分自身も状態を無理に維持していくようなことでは続かない。「これをずっと続けてもいい」と思える状態が幸せなのではないでしょうか。

「個人の幸せ」については極端な言い方をすると、死ぬ瞬間に思い出したいことが、その人にとっての本当の幸せなんだと思います。だから、美味しいもの食べたとか、贅沢旅行したとか、いろいろなことがあると思うけど、僕はやっぱり、死ぬ瞬間は自分の好きな人とか、家族とか友達と楽しく過ごしてる時のことを思いながら死んでいくのがいちばん穏やかな死ではないかな、という気がするんです。

僕は「分人(ぶんじん)」って考え方をよく使いますが、人間って対人関係ごとに違う自分になっていて、その中に好きな自分もあれば、好きじゃない自分もあると思うんです。できたら、好きな自分の状態で亡くなっていくのが理想的で、家族といる自分が好きだったら、家族が周りにいる状況で死ねたらいい。だから、日々の暮らしの一瞬一瞬が、人生を終えて、自分が死ぬ直前に思い出す記憶になるかもしれないと思うことがよくあります。人生を終えるその時にはたして今の状態が幸せなのかどうかと考えるんです。そうすると、子どもとお風呂に入ったり、ただ話してるだけという、日常の些細な記憶を死ぬ瞬間にどう思い出すのだろうか。人前に出て騒がれるような人生だったとして、それを死ぬ前に思い出しても、それで「いい人生だった」と思わないんじゃないだろうかと考えたりしています。

そこにいる時の自分が
好きになれるようなリビング

年齢を重ねて、今この歳になると、時が経つのが早くて、「いいな」と思うことの移ろいがとても早い感じがします。そう思うと、いいことに関しては一瞬一瞬が貴重だし、幸福を感じている瞬間がすごく惜しいんです。

リビングで過ごす時間と結びつけて考えると、今のこの瞬間だけに関わって、忙しくしていなくてはいけないというのではなく、自分が今いる場所を遠いところから見ていられるような、余裕を持てる空間があるというのは重要だと思います。それがリビングだとしたら、そこで過ごす時間が今の自分の人生の幸福を改めて教えてくれるような気がするからです。先ほどの「分人(ぶんじん)」の話にも当てはまりますが、そこにいる時の自分が好きになれるようなリビングって大事です。環境の中での自分、場所ごとの自分というものがありますから、他のどこにいる時よりもリビングにいる時の自分が好きになれる。リビングは安心する場所であると同時に、好きな自分になれる場所であったらいいと思うんです。

PROFILE

小説家

平野啓一郎さん(ひらの けいいちろう)

1975年愛知県生まれ。北九州出身。京都大学法学部卒。1999年在学中に文芸誌「新潮」に投稿した『日蝕』により第120回芥川賞を受賞。著書に『日蝕・一月物語』、『文明の憂鬱』、『葬送』、『高瀬川』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『決壊』、『ドーン』、『かたちだけの愛』、『空白を満たしなさい』、『透明な迷宮』、『マチネの終わりに』、『ある男』などがある。『マチネの終わりに』は20万部突破。映画化が決定し、2019年秋公開予定。

イズ・ロイエ立川展示場

東京都立川市泉町935-1
(ABCハウジングワールド立川内No.23)

営業時間/10:00〜18:00 
定休日/火曜・水曜・年末年始  
電話/042-548-0711

鉄骨1・2階建て
鉄骨1・2階建て
木造住宅シャーウッド
木造住宅シャーウッド
鉄骨3・4階建て
鉄骨3・4階建て