カレンダーではなく、風景で季節を知る住まい
キャンプやスノーボードなど、アウトドアが趣味のオーナー。自然とともにある暮らしを望まれ、お子様もその中で育てたいという強い思いをお持ちでした。新居の建築にあたっては立地にこだわり抜き、約3年かけて理想の土地を選定。その思いに応えるべく、土地の魅力を最大限に活かす工夫を住まいに施しています。
山の緑と川のせせらぎという美しい風景を臨め、最も自然の息吹を感じられる北東側をあえてメインの開口部とし、大きな窓と、自然の中に張り出すように設けた広いデッキを介して室内と自然とを繋ぎました。
南側の隣家からの視線を遮りつつ光を取り込むため、リビングに設けた吹き抜けの上部には窓を配置。明るい光が差し込みます。風景を取り込み、季節を楽しむ。まるで自然の中で、家族でキャンプを楽しんでいるようなひと時も楽しめるようにしています。
取り込んだ豊かな自然の息吹を住まい全体に行き渡らせるため、空間を仕切らず、光と風が行き来し、視線も遮られない大空間で室内を構成しました。これは住まいをより広く感じさせ、伸び伸びと暮らせる場とするための工夫でもあります。
1階は廊下をつくらず、壁をできるだけ無くして、LDKのワンルームに。室内のどこにいても、美しい戸外の景色を見渡せるよう工夫しました。2階の寝室と吹き抜けの間の壁は、窓際を腰壁とすることで、吹き抜けを見上げた時に景色が連続して見えるよう計画しています。
また、戸外と室内をつなげる仕掛けの一つとして、玄関土間を室内奥まで伸ばし、戸外とスムーズに行き来ができ、趣味のアウトドアグッズの出し入れも便利になるようにしています。土間の床は札幌軟石貼りにして自然の素材感を室内に。また大勢の来客もあるオーナーご一家に合わせ、訪れた方が靴を脱ぎやすという機能性も持たせています。
2階の子ども部屋も壁や扉を設けずオープンに。細身の手すりで吹き抜け越しに自然の風景も飛び込んでくる空間です。縦にも横にも繋がった大空間として、豊かな自然の中、ひとつの大きな屋根の下で家族が暮らしているような感覚を創り出しました。
室内の素材選びでも自然との調和を図っています。1階床はアッシュの挽板、壁と天井は節が多めのナラの突板を使用。キッチンは造作し、キャビネットの無垢のナラ材は、見た目がうるさくならないよう節が少ないものを採用しています。
ダイニングスペースのグレーの塗壁は、ラフで気取りのない印象のモルタル。職人の手仕事の味によって、より質感をもたらし、光の当たり方によっても変化が楽しめます。
インテリアのテイストは、もともとオーナーご家族がお好みだった、アースカラーやナチュラルカラーでまとめられた小物やクッションカバーが、しっくり馴染むことにも配慮しました。
地元産の銘石・札幌軟石を配した玄関土間は、モルタルの塗壁とも調和。土間収納の扉は、壁や天井と同じナラの突板に。ブラックアイアンの把手をデザインのアクセントとしています。
目指したのは周辺環境に溶け込み、元からそこにあったような、さりげない佇まい。長方形の箱をそっと置いたようなシンプルなシルエットとし、道路から見える西側の壁の細長い窓がアクセントとなります。
外壁のダインウォールはテクスチャーが主張し過ぎないスクラッチ柄で、山肌や木の幹に近いペールグレー色に。この色は周辺の街に点在する、札幌軟石を積み上げてつくられた「蔵」に近い色でもあります。またエントランス周辺には同じく地元の名石で、軟石よりも色が濃くゴツゴツした札幌硬石を敷くなど、地元の素材を積極的に利用しています。
この住まいで実現したのは、大自然が織りなす四季の美しさを存分に取り込んだ暮らしです。カレンダーではなく、風景から季節がわかる贅沢な空間を目指しました。春には雪解けの水の音、夏には圧倒的な山の緑、秋には紅葉のグラデーション、冬にはデッキに雪が積もり、山の雪とつながる。そんな自然とシームレスな住まいとしています。
敷地を取り巻く様々な環境の中で家がどう建つべきか、見極めることが基本だと思っています。そこから自ずと家の形が見えてきますが、住むご家族にとって「この家はベストなのか」と何度も繰り返し考えながら、答えを見つけるよう心がけています。敷地の状況が全てではなく、ご家族のご要望も全て叶えればいい訳ではない。そのバランスを調整していくことが、設計の仕事と考えています。
家族構成/夫婦+子ども1人
所在地/北海道
敷地面積/767.03㎡
延床面積/114.09㎡
取材年月/2019年4月