6つの箱を大屋根が覆う
森に溶け込む平屋の家
長い歴史を刻む大木が林立する、ご実家の広い敷地。
その中でオーナー様は、“森の中にひっそりと佇むような平屋を”
というご希望をお持ちでした。
当初、オーナー様は敷地内の別の位置に新居の建築をお考えでしたが、
敷地を拝見し、雑木林だった現在の建築地こそ、ご希望にかなうのではと判断。
年輪を刻んだ欅や樟等、既存の大木に囲まれるように森の中に建物を計画し、
移植可能な植栽は再配置することで、自然と一体化する住まいをご提案しました。
森の美しさを暮らしの中で存分に味わうため、
例えばリビングダイニングは、あえて木々が美しく見える北向きにプラン。
室内から見ると背後から陽光が当たり順光となるため、
鮮やかな葉のきらめきを眺めることができます。
内にいながら、外にいるような、
そんな不思議な感覚を覚える、暮らしの舞台をつくりました。
リビングダイニングとテラスは、床と軒のレベルを合わせて内と外との一体感を図り、クリアビューウインドウが、森の風景を絵画のように切り取るよう構成しています。
建築前から自生していた欅や樟、竹林を活かし、椿などの中低木をバランスよく移植して再構成した植栽が、住まいを包み込みます。
より、豊かな森の中で暮らしている感覚をもたらすために。
そう考え、暮らしに必要な機能を持ったコア空間を、6つのボックスとして想定。
それらを、例えばキャンプ地に点在するコテージのように、
森の中に配置しました。
この6つのボックスに、おおらかな緩勾配の大屋根をゆったりと被せ、
ボックスとボックスは直接につながず、間に生まれる空間はガラスで覆い、
どこにいても視線が抜け、その先に緑が見えるようにしています。
ボックスの間、大屋根に守られたリビングダイニングにも、
大きな窓を配して、森の中にいるような開放感を創出。
一方、寝室や水回りは、ボックスにすることで、
プライバシーや安心感を確保しています。
気持ちのいい開放感とともに、様々な居場所にいる家族の気配を感じられるリビングダイニング。四方に緑を感じ、自然の中にいる感覚が持てる空間としています。
ボックスとボックスの間の空間は、視線の先のフィックス窓から森の緑が飛び込むようにし、木の床と天井やシラス壁の素材感で、さらに自然に包まれる印象に。
リビングは床レベルを360mm下げたピットリビングに。
カーペット敷きにして、低い座面高の特注のソファを配置しました。
地面に近い高さから庭を眺められ、
リラックスして家族と過ごすことができ、
まるでリスが巣穴から森を眺めるような感覚を覚える居場所になっています。
キッチンも120mm床を下げて、ダイニングにいる家族と視線が合うように計画。
目線の高さをコントロールすることで、
家族や自然とのつながりを、より深める空間としています。
また天井や壁面はできるだけフラットに。
ダイニングテーブルやカウンターの厚さを薄くし、建具の把手はくりぬきにするなど、
余計なものが目に入らないシンプルな空間デザインとすることで、
より一層、暮らしの中で自然の美しさが際立つようにしています。
イロコ材を床と天井に採用したリビングダイニング。軒裏と天井が連続し内外の一体感を演出。窓際に配置したダイニングテープルでの朝食やランチは、自然の中にいる感覚。
セミオープンタイプのキッチン。冷蔵庫専用の収納スペースやパントリーを設置し、キッチンをすっきり保ちます。その並びにある子ども部屋との間から明るい光も感じられます。
外観も森の中に溶け込むように。
2.5寸の緩勾配の大屋根と、柔らかな色の吹き付けの外壁で、
周囲の木々の中にひっそりと佇むような外観を実現しました。
木々は剪定などで樹形やボリュームを整え、光や風の抜けを良くし、
木々の生育環境と室内からの景観性をアップさせています。
それらの木々は強い日差しの時期には葉が繁るため、
室内の快適性アップにも寄与。家を包み込むように群生する緑が、
開放的ながらもプライバシーが守られた住まいを実現しています。
昔からそこにある木々と、その高い枝から響き渡る野鳥のさえずりが住まいへと誘い込むように、低い塀に沿ってRCの細いアプローチを設置しています。
家族や訪れる人を大らかに迎え入れるように、アプローチには大樹のような大きな庇を設けました。
木々に合わせ角度を丁寧に調節するなど、
庭での照明デザインも綿密に行い、
夜も木々を眺め、楽しめるようにライトアップ。
室内からも昼間とはガラリと変わる趣を、
楽しむことができるよう計画しました。
外からも、帰ってくる家族が遠くから眺めると、
まるで家が浮かび上がって見えるようにもなっており、
家族が集う、温かな暮らしの場であることを伝えています。
建物に近い庭の部分をライトアップ。夜の住まいと共に、美しいシルエットが浮かび上がります。
夜は庭の木々を照らした灯が、帰宅する家族を暖かく迎えます。
敷地内には江戸期に建てられたというご実家があり、長い歴史を刻む大木も林立。お祖父様が植えられた椿も群生していました。最初は敷地内の別の場所での新築を考えていらっしゃいましたが、なるべく既存の木々を活かしたいと思い、森の中である現在地に建物を配置するプランをご提案。窓の位置や室内の視線の抜けを綿密に考え、室内にいながらにして自然を感じていただくことを目指しました。もともと敷地にあった、「在るものでつくる」「在るものを活かす」ことにこだわった住まいです。
家族構成/夫婦+子供2人
所在地/福岡県
敷地面積/557.81㎡
延床面積/205.37㎡
取材年月/2019年10月