自然とともに
シンプルに美しく暮らす家
長野県の南アルプスを望む、市街地から程よく離れた郊外の傾斜地。
この地で自然とともに暮らしたいというオーナーの思いに応えて、
「山」「木」「火」の3つをコンセプトに家づくりを進めました。
美しい「山」の眺望を楽しむため、家の向きや窓の取り方を計算。
温かな「木」の素材を、存分にインテリアに活かし、
安らぐ「火」を暮らしのそばで感じる薪ストーブを配置しました。
小さな家の中に、心地よく暮らせる工夫を施しています。
シンプルであることを大切にした、
丁寧な暮らしの舞台となる住まいです。
家の中心に据えた、一番眺めの良いダイニング。家族や友人が集うダイニングテーブルは、円卓のものをオリジナルで作成しています。
ダイニングからウッドデッキに出れば、南アルプスを見晴らし、季節ごと、時間ごとに移ろう自然の姿を存分に味わうことができます。
隣家の背中を見て暮らすより、雄大な山々を眺めて暮らしたいというオーナー。
そこで一番眺望が美しい東側に大きな窓を設け、
1階は開放的なダイニング、2階は寝室を配しました。
ダイニングはウッドデッキと繋げ、より自然と一体に。
さらに階段室を気持ちの良い吹き抜けにし、
窓を設けて南側の光と眺望を取り込む工夫をしています。
この吹き抜け空間とストーブを組み合わせ、住まいに心地よい一画を創出。
ここには書棚も造り付け、階段にちょっと腰掛け、図書室のようにも使えます。
またリビングも、客間にも子供部屋にもなる自由で柔軟な空間に。
自然を身近に感じられるコンパクトでシンプルな住まいとしました。
一方、リビングとダイニングを対角に配置することで、最長距離を確保し、
視線が広がる、伸び伸びとした暮らしの場ともなっています。
南側に設定した階段室には窓を設け、階段を上り下りしながら眺望も楽しめます。また書棚を作りつけ、階段に座って、家族で読書の時間も過ごせます。
開放的なダイニングに比べ、こもり感を持たせたリビング。床を一段高くすることで、ダイニングと開放的に繋がりながらも、空間を緩やかに分け、ここに腰掛けて寛げる居場所にもなります。
寝室に設けられたウォークインクローゼットは、階段室側からも出入りが可能で、収納スペースとしてだけではなく、通路としての役割も果たしています。
本物の木の風合いを暮らしの隅々で感じるため、素材にこだわりました。
床はヨーロピアンオークの無垢材を用い、これに合わせるように、
クリの無垢材でキッチンやダイニングテーブルを造作。
ダイニングの天井は、梁を半あらわしにして、
床、スギのウッドデッキとともに、木で包み込まれるような空間としています。
また、洗面台もクリ、さらに収納扉はタモを採用しました。
壁紙は自然素材のクロスで、落ち着いた色合いのものを施し、
室内の雰囲気を、より上質なものに。
オリジナルで造作したキッチン。クリ材を用い、ダイニングまで伸びる長いカウンターを設置し、コンロやシンク、収納を一体化させています。丸いダイニングテーブルとともに、デザインしました。
脱衣室を兼ねた洗面室も木にこだわってオリジナルにデザインしました。洗面台と収納庫を木製で統一し、温かみと清潔感が漂う空間にしています。
刻一刻と姿を変える炎、静謐さの中に響く薪の爆ぜる音。
冬には氷点下にもなる地域で、暖房として採用したのは薪ストーブです。
手間暇かけて火を育てる時間は、少し贅沢なひと時。
そんな時間を味わうために、薪ストーブを中心にプランを構成しました。
熱効率や薪を室内に運び込むルートも熟考して、玄関と南側階段室の間に設置。
オーナーが自作した薪棚は玄関や室内から見える位置に置き、
眺めても、その木の素朴な質感を楽しめるようにしています。
インテリアとエクステリアに同じ空気が流れる、
そんな空間づくりに、薪ストーブは一役買っています。
玄関と階段室の間に設置した薪ストーブ。火が入ることで、室内は癒しの空間に。無垢の木や壁の穏やかな色に、ストーブと階段手すりの黒がポイントカラーとなっています。
ウッドデッキは窓を開け放つことでダイニングの延長に。ストーブ用の薪棚を室内から見える位置に設けることで、自然の中での暮らしを実感するアイテムともしています。
外観は周囲の自然に溶け込むものに、というオーナーの希望に応え、
総2階のシンプルな外形による、
5寸勾配でシルエットが美しい方形屋根を提案しました。
外壁の色は自然環境に馴染むアースカラーに。
ウッドデッキや薪棚なども外観のアクセントになっています。
大きな敷地にゆとりを持って建物を建てる。
そして外構はなるべく敷地の形状をいじらず、新たに植える植栽も、
元からあった木々と違和感なく調和する、自生種や在来種から選んでいます。
敷地に余裕があることから、将来的なリフォームにも柔軟な対応が可能です。
シンプルな総2階という、コスト的にも合理的な形を採用した外観。前庭を中心にアオダモやヤマモミジ、カツラ、ナナカマド、ナツハゼ、コナラなど、多くの植栽を配することで圧迫感を軽減し、周囲との調和も図っています。
ウッドデッキの南端、玄関の横にプランした薪棚。駐車スペースのすぐ脇でもあり、車から降ろしてすぐに収納でき、使用するときも玄関から、ストーブへとスムーズに搬入できるよう、動線も計算しています。
小さな家の設計には“精度”が必要だと考えています。この7m×7mの正方形の家では、必要最小限のシンプルな間取りにして、季節や時間帯、人数によって空間をフレキシブルに使い分けられるようにしました。またリビングから対角線上に視野が広がるよう、窓やストーブの配置、デッキの高さを綿密に計算。また、天井高や余暇の高さ。窓の大きさを変えて、対比感を演出しています。
家族構成/夫婦+子ども1人
所在地/長野県
敷地面積/384.00㎡
延床面積/96.12㎡
取材年月/2017年8月