外のような内、
内のような外。
道路や隣家からの視線は気になるけれど、樹の下で自然の光と風を感じながらゆっくりお酒を楽しむ。
そんなオーナーの願いに、「それなら“室内の庭”をつくってしまおう」という発想で実現したのが、この住まいです。
リビング北側に樹木を植え、“室内の庭”をプラン。
南側の深い軒に覆われたテラスと合わせ外のような内と内のような外と空間を挟み込みました。
自然素材にこだわったインテリアともあいまって、内と外が一体化。
木々に囲まれて暮らしているような我が家だけの自然を味わえる場所を実現しています。
リビング北側には鉢を埋め込み、そこに常緑樹ハイノキを植えて自然石で覆い「もうひとつの庭」に。南側の庭と呼応して、室内全体を戸外のような雰囲気としています。
角地にあり、南と東に道路が走る現地。
当初はプライバシー確保のため2階リビングを想定していたオーナー。
しかし、より自然を身近に感じるために地面に近い1階リビングを提案しました。
その際、敷地の北側にはアパートと駐車場があり、開口部をつくっても気持ちのいい空間にはならないと考え北側は窓を設けず完全に閉じることに。
一方、いくら“室内の庭”を設けても、光や風が抜けなければ、本当の庭とは言えません。
そこでリビング北側上部を吹き抜けとし、2階の窓から柔らかな光をハイノキに落とす。
南側の窓から入った風が吹抜けを通って外に抜ける。
外からの視線を気にせず、光と風を感じる場所としています。
リビング北側の“室内の庭”部分は、南側のウッドデッキと同じものを配置。一段下げることで、リビングとは一線を画した空間としています。
2階北側の廊下は右手に奥様の化粧スペース、左手にクローゼットとして空間を有効に活用。朝は吹き抜け上の窓から光が差し込み、気持ちよく身支度ができます。
内と外をつなぎ、かつ、上質な室内空間とするために、インテリアの素材にもこだわりました。
リビング正面の壁は、外の庭へとつながる袖壁と同じ塗り壁に。
テクスチャーを揃え、連続性を持たせることで、戸外の息吹を室内に引き込んでいます。
リビングの床はパイン。
あえて節の多い部分を選び、自然素材の持つ、荒々しさをアクセントに。
建具やキッチンカウンターの突板等はそのパイン材の赤みがかった部分の色に合わせすべてブラックチェリーを採用。
天井には不燃性のスギを使用するなど、素材の質感と機能性にこだわった、インテリアとしています。
吹き抜けを介して、優しい光がこぼれる“室内の庭”
外観は街並に溶け込むシンプルなシルエットに。
南側の庭を覆う木質のフェンスとそこから覗くハナミズキ、そしてシンボルツリーであるアオダモが、豊かな表情を作るよう配置しました。
アオダモの根元部分には地元で取れる石を砕いて配しています。
玄関へのアプローチは、浮き橋のようなイメージに。
隣家との柔らかに仕切る境界線の意味も持たせています。
南側の庭も高さのあるフェンスで覆い、風は通しつつも視線は遮るように。
一面にウッドデッキを敷き深い軒で覆っています。
壁の質感や軒裏と天井の素材を揃えることで、リビングの延長となる空間にしました。
季節によって日差しの角度が変化し、ハナミズキの木漏れ日の影がウッドデッキや壁に表情をもたらします。
奥様は日中、ここで愛猫たちと寝転がって過ごすことも多いとか。
街の中にいながら緑を近くに、存分に自然の風と光を感じられる特別な空間をつくりました。
南側の庭にはハナミズキを植樹。外のアオダモ、内のハイノキと同じく根元に地元の石を配し、外から内、内から外と、緑のリレーでつないでいます。
オーナーが一緒に暮らしている愛猫たち。ウッドデッキはお気に入りの場所のひとつで、フェンスが高いので外にでてしまうこともないとのこと。
設計担当としては、最初に見るのは土地。どういった形状で、どういった制約があり、周辺環境はどうなのか。次に考えるのは、お客様が何を一番、大事にしているのか。どのような『こう住みたい』というお気持ちをお持ちなのかということ。設計として“こうしたい”ではなく、お客様の想いを具現化するのが設計の仕事だと考えています。
家族構成/夫婦+猫2匹
所在地/山口県
敷地面積/141.57㎡
延床面積/112.75㎡
取材年月/2018年5月