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旅や食文化、田舎暮らしといったテーマを中心に、軽妙洒脱でウィットに富んだ文章で読者を魅了するエッセイスト、世界各国でおいしいものを探求・考察し、独自のレシピを生み出す料理愛好家、さらには野に咲く花、摘みたての果実や野菜、海外の風景などをやさしいまなざしで描く画家としても知られる玉村豊男さん。1991年に長野県東御(とうみ)市へ移住して農園“ヴィラデスト”を開き、2003年からは“ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー”のオーナーとしてもご活躍です。そんな玉村さんを訪ねて東御市へ。農園“ヴィラデスト”を始めたいきさつや、ワインづくりに対する思いを語っていただきました。

家庭菜園を楽しもうと長野の里山に移住。

玉村豊男さんがオーナーをつとめる「ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー」は、標高約850mの里山のほぼ頂上にあたる斜面にあります。眼下には上田盆地と千曲川、正面には信濃の山々が連なり、さらのその向こうに北アルプスの稜線。その眺めは思わず時を忘れて見入ってしまうほどの美しさです。ワイナリーやレストランの入った建物の前には、花々の咲くガーデン。周囲のブドウ畑には、短く剪定されて背丈の揃ったブドウの木が整然と並んでいます。
「ヴィラデストカフェ」は、雄大な自然に抱かれたブドウ畑の風景を見ながら、そのブドウから作られたオリジナルワインや、料理愛好家としても著名な玉村さん監修のお料理がいただける農園レストラン。フレンチをベースにした料理は、ガーデンで採れたハーブや地元産の野菜がふんだんに使われ、色鮮やかでボリュームたっぷりです。階下にあるワイナリーは、レストランの一角からガラス越しに見られる構造になっているので、タイミングが合えばワインづくりを眺めることもできます。

この楽園のようにのどかで美しい「ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー」は、どのようにして誕生したのでしょう。事の発端は、玉村さんが東京から軽井沢に移り住んだ1983年にさかのぼります。
「東京での生活に何の不満もなかったのですが、知人から強くすすめられ、ほんの軽い気持ちで引っ越したんです。住んでみたらとても気に入って、田舎暮らしやアウトドア料理なんかをテーマに、以前と変わらないペースで原稿をこなしながら、テニスを楽しんだりしていました。ところがテニスのやり過ぎか、お酒の飲み過ぎか、仕事のし過ぎか知らないけれど、ある晩吐血をしてしまってね。」
そこから2年ほど続いた療養生活をきっかけに、人生の後半は農業をしながら夫婦二人でのんびり暮らそうと、玉村さんは奥様と一緒に土地探しを始めます。その第一条件は、眺めのよい場所であることでした。
「軽井沢は住むのには快適だけれど、農業をするには標高が高いんです。毎週末あちこち車で探し回り、1年半ほど経ったある日、“水は出ないけれど眺めのいい農地がありますよ”と案内され、雑木林をかき分けて進んだ先に開けていたのがこの場所。あの眺めを目にした瞬間、ここにしようと決めました。」

とことんこだわった
マイホームづくり。

こうして手に入れた3500坪の土地で、玉村さんご夫妻を待ち受けていたのは、大がかりな開拓作業でした。水道も電気も通っていない荒れ地に、井戸を掘り、道路をつくり、雑木林を切り開き……。その間のご苦労とそれを乗り越えたお二人の精神力の強さは、並大抵のものではなかったはずです。
さらにご夫妻は、家づくりにも大変なエネルギーをおもちでした。
「イメージはね、“アジア各国に長く住んだイギリス人外交官が、フランスの片田舎に建てたような家”です(笑)。20年ぐらい使い込んだ時点でいちばん綺麗になっているのが理想だったので、無垢の木をかなり贅沢に使い、真鍮のドアノブひとつ探すために東京じゅうを駆け回りました。」
すべてを希望通りに仕上げたかった玉村さんは、家づくりを工務店にお願いせず、設計のプランニングや建築家との打ち合わせから、各種工事業者の手配まですべてご自身でこなすことに。しかも寝室とキッチンを真っ先に完成させるよう大工さんにお願いし、そこに住み込んで原稿を執筆しながら、建築のプロセスをチェックしていたそうです。
「冬に基礎工事をスタートして春に建て始め、夏から住み込みました。“そこは、あと10cmこっちにずらして!!”なんていちいち細かく指示していましたから、すごく時間かかりましたね。寝室とキッチンの間がきちんとつながり、雨の日に傘なしで移動できるようになったのは年末のことです。」

初めて植えた500本のブドウの木。

家づくりと並行してすすめたのが、大きな石ころだらけで、背丈より高い雑草が生え放題になっていた農地の開墾でした。
「毎日クワをふるっていたら、どんどん元気になって筋肉もつきました。」
ようやく完成した畑では、多種のハーブや当時の日本では珍しかった西洋野菜などさまざまな作物を栽培。その一部は知り合いの小売店で販売することもあったそうです。
「それにしても3500坪というのは、さすがに広すぎますよね。そこで、家からいちばん離れた600坪ほどの区画にブドウの木を500本植えました。この標高ではワイン用のブドウは育たないと言われたけれど、ここの斜面を見ていると、いかにもフランス人がブドウ畑をつくりそうでしょ? 育たなければそれでもいいからと、思いきって植えてみたら、わずかながらも実がなったんです。」
できあがったブドウを、仕事で縁のあった大手ワインメーカーに持ち込み、醸造を委託。こうして玉村さんにとって、初めてのオリジナルワイン(ボトル14本)が完成しました。

「みんな“畑を拓いて農業をするのは、さぞかし大変だったろう?”って言うんだけど、僕自身はさほど苦労は感じなかったですね。初めての体験ばかりで面白かったし、物を書く材料にもなりましたから。農作業は暗くなったらできないから、日没まで一生懸命働いたらその日の作業はおしまい。あとは飯を食べながらワインを飲んで、風呂に入って寝る。そして翌朝になったら、また仕事です。自然が相手なので計画通りにいかないこともあるけれど、常にやるべきことがあって、やった後は達成感が得られる。毎日をそういうふうに過ごしていると、“地に足をつけて暮らしている”という実感があるんです。それがすごく心地いい。」

玉村豊男(たまむら とよお)

1945年、東京生まれ。東京大学フランス文学科卒。在学中、パリ大学言語学研究所に2年間留学。通訳、翻訳業を経て、文筆業へ。
1991年、長野県東部町(現・東御町)に移住。2003年10月に酒造免許を取得し「ヴィラデストワイナリー」を開設。2014年日本ワイン農業研究所を設立し、アルカンヴィーニュ(ワイナリー)を拠点とする千曲川ワインアカデミーを開講。『パリ 旅の雑学ノート』『料理の四面体』『田園の快楽』『絵を描く日常』『千曲川ワインバレー』『隠居志願』など著書多数。最新作は『美味礼讃(ブリア=サヴァラン/著、玉村豊男/編訳・解説)』。

ヴィラデスト ガーデンファーム アンド ワイナリー 公式サイト
http://www.villadest.com/

後篇では、ワイナリー設立の裏話や現在進行中の「千曲川ワインバレー構想」についてご紹介いただきます。どうぞお楽しみに!

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