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いつもとはひと味違う雰囲気でお届けしている今回の「森の情報便」のゲストは、現代美術家の内藤礼さん。木、糸、ビーズなどで作った小さくて繊細な作品や、風や光といったランダムに変化する自然を取り込んだ空間構成による静謐かつ神秘的な作品で、日本国内はもとより、世界各国でも高い評価を受けています。
内藤さんの作品は、その展示空間も含めて作品として体感する、というのが大きな特徴で、展示期間が終わるとその作品は消えてしまうのですが、いつでも鑑賞できる“パーマネント作品”が2作品だけ存在します。それが、瀬戸内海に浮かぶ直島の《このことを》と、お隣の豊島にある豊島美術館の《母型》。豊島美術館に隣接するカフェスペースで、直島と豊島の2作品を中心に、初期から今日までの作風の変化や、作品づくりに対する変わらぬ思いなどを語っていただきました。

会期中、常に手入れが必要だった初期の内藤作品。

瀬戸内の美しい自然にアートが溶け込んだ“現代アートの聖地”として、世界中から多くの人々が訪れる直島。この島に古くからある集落“本村地区”に点在する古い家屋や神社を、一軒ごと異なるアーティストによって作品化しているのが、1998年から展開されている“家プロジェクト”です。現在は7軒が公開されており、来島者は島の人たちが暮らす本村の町並みを散策しながら作品を鑑賞します。
内藤礼さんの作品《このことを》は、このアートプロジェクトのひとつとして2001年に誕生。《このことを》の制作を契機に、内藤さんの作品には大きな変化が生まれました。そこでまずは、《このことを》以前の作品について少し振り返ります。

アーティスト・内藤礼の名を広く知らしめたのは、1991年に東京で発表された《地上にひとつの場所を》。会場内に吊ったテントの中に、植物の種や葉っぱ、細い針金や糸で作られた小さなもの、照明器具などを配置した作品で、鑑賞者は一人ずつテントに入り、10分間の鑑賞時間を一人きりで過ごします、この斬新な鑑賞方法は、美術関係者の間で大きな話題になりました。
「一人ずつ入ることで、他の誰かの言葉や視線に影響されることなく、作品にどこまで近寄るかといったことも含め、自分自身の体験をする自由を知ってほしかったんです。それに人には、一人きりにならないとわからないこともあります。」と内藤さん。実はこの作品には、もうひとつ大きな特徴がありました。とにかく繊細な作品で、鑑賞者が歩くだけでも作品が動いたり壊れたりしてしまうので、内藤さんは展覧会の会期中ずっと会場内で待機し、1時間ごとに作品の中に入って、壊れた部分を整えていたのです。
「会期が限られている展覧会だからできたこと。恒久的に展示するパーマネント作品では、そうしたくてもできないことです。」

《地上にひとつの場所を》は、ニューヨークやヴェネチアなど海外でも発表。その後、内藤さんのもとに“直島でパーマネント作品を作ってみませんか”という依頼があり、内藤さんはそれを引き受けます。
「自分から離れた場所に作品が存在するというのは、私にとって初めての経験。私のいない場所で、私ではない人が毎日作品の中に入り、その手入れをして、鑑賞者を迎え入れる……。これをどれだけ肯定的に受け止められるかということが、私にとって課題の一つでした。」

ここでしか味わえない、かけがえのない時間。

直島で内藤さんに託されたのは“きんざ”という屋号を持つ、築200年ほどの平屋。詳しい歴史は不明ですが、そこはかつての網元の敷地内なので、漁師たちが一時的に寝泊まりするための家として建てられたという説が有力だそうです。
「そんな話をうかがい、この家が建ったときそこにあっただろう空気を感じ取りたいと思ったので、床と天井を取り払うようお願いしました。作業完了後に再び島を訪れ、家に足を踏み入れてしばらくすると、壁のいちばん下の少し崩れたところから、外の光が入っているのに気がつきました。その隙間を通して、外の道路にできた小さな水たまりがささやかに光るのが見えたのですが、これがとても美しくて……。なにより衝撃的だったのは、目の前に現れた“土”。“大地の上に家を建てている”という、普段はまったく意識していないけれど、人間の生の根本を強く感じ、そこに在る土をそのまま三和土にすることにしました。そして家というものの構造、つまり柱と梁がしっかり感じられるように整え、四方の土壁にはスリット状の明かり取りを。」
明かり取りからは、当然ながら外の光が入ります。毎日多様に変化する光をそのまま作品に取り入れるということもまた、内藤さんにとって初めての試みです。
「人工照明を注意深く配置し、誰がいつ見ても光の変化がない、安定した状態を維持するのがそれまでの私の作品でした。自然に対する共感はあったので、作品の材料は木や綿、種、竹ひごなど自然素材のものが中心でしたが、意識的に避けていたのは土・水・火・風という自然の四大元素。なぜなら、象徴性が強すぎると思ったからです。ところが“きんざ”には、はじめから土があり、さらに光と闇があった。そこで初めて素直にそれらと向き合い、プランを考える過程で、きっとここは“光や天候の変化を、そしてここを訪れる人をそのまま受け入れる器”、そして“私たちには自然や命や時間といった素晴らしいものが、あらかじめ与えられているのだ、ということを感じられる場所”になるのだろうと、だんだん明確になっていきました。作品の英語タイトルが“もたらされている”という意味の“Being given”なのはそのためです。」

“きんざ”のような島の集落の古民家、古い歴史を持つ修道院など、さまざまな空間で作品を展開している内藤さん。かつて、ある雑誌インタビューで「その場所がもともと持っているよいものが現れるようにすることが、私の仕事かもしれない」と語っています。その真意をうかがってみると……。
「小さな何かがそこに置かれたことで、場が変わることがあります。たとえば“ここにはこんなに清らかな光が届いている”ということがあらわになる。それとは逆に、元の姿に戻すことで、その空間の本質に気づくこともあります。私は場をすっかり作り変えてしまうのではなく、そこにもともとある自然や環境や建築を肯定的に受け止めたうえで、何らかの理由で隠れてしまっているよいものが表に現れるようにするために作品を作っているような気がするのです。」

内藤 礼(ないとう れい)

美術家。1961年、広島県生まれ。
1985年、武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。1991年、佐賀町エキジビットスペースで発表した「地上にひとつの場所を」で注目を集め、1997年には第47回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館にて同作品を展示。主な展覧会に、1997年「Being Called」(カルメル会修道院、フランクフルト アム マイン、ドイツ)、2014年「信の感情」(東京都庭園美術館)、2017年「信の感情」(パリ日本文化会館、フランス)、2018年「Two Lives」(テルアビブ美術館、イスラエル)など。パーマネント作品として2001年「このことを」(直島・家プロジェクト・きんざ)、2010年「母型」(豊島美術館)がある。

ベネッセアートサイト直島
今回お話を伺った家プロジェクト「きんざ」《このことを》と豊島美術館《母型》を鑑賞できる「ベネッセアートサイト直島」は、瀬戸内海に浮かぶ直島、豊島、犬島を中心に行われているアート活動プロジェクト。美しい海に囲まれた自然あふれる環境で、さまざまな現代アートや建築と出会えます。
公式サイト http://benesse-artsite.jp/

後篇では豊島美術館の「母型」のことや、内藤作品に共通するテーマ、作品づくりに対する考え方などについて伺います。どうぞお楽しみに!

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