設計士の仕事は、合唱団の指揮者にも通ずる所があります。一人ひとりの声を最高のパフォーマンスへと導き、複数の声の組み合わせを絶妙に融合させる。つまり、設計を依頼されたお客様のご要望を最高の工夫やアイデアで実現し、建物全体のクオリティを高めることと似ています。実は私、今でも合唱団で歌を歌っていまして、まず上手に歌うには曲が持つ意味やコンセプトを理解した上で歌として表現しなければなりません。そこが非常に難しく、自分では表現できているつもりでも、聞く人によっては伝わらない歌にならないようにしなければなりませんし、設計にしても独りよがりになってはお客様の満足は得られません。だから私は、まず理解して、どう表現するかにいつも力を注ぎます。
そういう意味では歌も設計も奥が深く、特に設計の場合は「時代の流れ」という要素が加わります。最近でこそデザイナーズハウスなどと設計に脚光があたるようになりましたが、一時期の日本の住宅はどれも似た者同士だったと思います。家族構成はもちろん、趣味や好み、さらには性格だって人それぞれ違うのに家のカタチは似通っている。それっておかしいと思いません?だからある家族が本当に満足のいく家を建てたとしたら、それは世界にひとつの建築だと思います。決して大げさでなく、設計というものは、それほど人間の本質に迫るものだと私は考えるのです。
建築家 安藤忠雄氏は尊敬するデザイナーの一人ですが、実に人間の本質に迫ることに優れています。よく安藤氏の建築展にも足を運びますが、いい意味でドロクサイと言うか、カッコだけでなく人間や暮らしに焦点をあてて、しかもそれらがセンスに満ちあふれているところに刺激されます。だから私も人間の本質に迫るために、多くの物や空間を目で見て確認し、冷たい・暖かいといった感覚も肌で感じ取りながら設計する所存です。
みなさんもお感じになることがあると思いますが、わが家には年月の経過とともに愛着が沸いてくるものです。たとえば旅行などで3〜4日留守にして帰宅すると、「あぁわが家はいいなあ」とお思いになるでしょう。私はそれを、毎日感じていただくための設計をしたいと考えます。いいデザインは、毎日見ても、何年見続けても、いいものです。そこに流れる空気までも心地よいリズムを奏でるかのようです。ぜひ、美しく家をつくって、美しく住んでください。そのために私は、心に美しく響く設計をいたします。