私は小さな頃から美術や歴史が大好きで、本を読んだり、展示会に出向いては、さまざまな芸術作品に心踊らせている少年でした。そして、いつの間にか自然と「いつかボクも自分が作ったもので、人々に感動を与えられるような仕事に就きたい」と思うように。ちょうどその頃、はじめて設計士という職業の人に出会い、設計士という仕事のやりがいや楽しさ、難しさなどまで熱心に聞けたことが現在につながっているのだと思います。その人は今でもよくお会いする父の友人なのですが、考えてみると、あの少年時代に「お客様を幸せにする住まいづくり」という設計士としての基本的な心構えを学んだ気がします。
今でもいろんな資料や映像を見て、設計の参考にしているのですが、何よりも刺激になるのは海外旅行です。私は、繊細かつ絢爛なイスラム建築が特に好きで、これまでスペインやトルコなどを中心に巡ってきました。そんな中でも一番印象深いのはモロッコの旧首都フェズのメディナ(旧市街地)です。この街で感じたことは、街と人々の生活が実に濃く結びついていること。世界一とも言われる巨大で複雑な迷宮都市で、一見とても住みにくそうなのですが、その道幅、窓と通路の視線の関係、通りと中庭の関係など事細かにイスラム法に則って形成されており、そこで生活する人にとっては実に理にかなった街づくりがなされていたのです。まさに街の中心に生活があり、そこに暮らす人の思いが込められている。住まいが文化となり、歴史となる、いいお手本でした。
海外のことばかり話してしまいましたが、もちろん国内の建築にも非常に興味があります。実際に、よく見て回っているのが、安藤忠雄氏による設計ですかね。有名なものには「光の教会」や「六甲の集合住宅」がありますが、それら一つ一つが幼い頃に見た芸術品と同じように、心ざわめきだす感動を与えてくれるのです。一度ご覧になった方ならおわかりかと思うのですが、安藤氏の設計は美しい「芸術」だからと言っても、特別に使いにくいことがありません。そればかりか、その土地ごとの環境や景観を見事に生かして設計されているのです。まるでひとつの文化を見ているかのように尊く奥深いもので、建築家としての懐の深さを感じさせます。
安藤氏に比べれば、私はまだまだ駆け出しですが、建築への情熱だけは負けていないつもりです。先日、何年か前に設計させていただいたお客様から「久しぶりに一杯どうですか?」と、ご自宅にお招きいただいたことがあったのですが、ご家族の皆さまが私の設計した住まいを実に大切に、楽しく暮らされている姿を見て、心から感動してしまいました。私は、「楽しく。美しく。心地よく。」を基本に、ご家族に愛され続ける住まいをお届けしたいと思っています。そしてモロッコで見た、あの街のように、永くいつまでも、年輪を刻むように暮らしていただけたら、うれしいですね。